慧エッセイ2004-0101 『言葉にイノチが宿る!』

Copyright(C) 2004 Yamaguchi Taikoh @ gainendesign.com


概念デザイン研究所の主たるアウトプットはコンセプト・デザインで、これは最終実施段階のデザイン(図面が主) の前段階のデザイン創出となる。

コンセプト・メイキングの本質は、概念生成、言葉の創出にあり、最終的な表出物は多くの現実化オプションの 中から取り上げるという意味で、クライアントの自由意志に委ねられることになる。

この本質性ゆえに、言葉を生み出すこと(ロゴス化)は非常に重要で、コンセプト・メイキング時に 最も注力しなければならないものなのである。その意味を踏まえて概念デザイン研究所では ”言葉を発明する”と表現している。
つまり、コンセプターやデザイナーの意思に基づいた創出物として 新たに言葉を発明する(開発する)ということなのである。

しかしながら実際の多くの場面では、本質である言葉のやりとりだけではクライアントの頭の中に概念を移植したり イメージを共有することはなかなか難しくもある。

そこで、わかりやすい伝達手段として、「イメージ・シナリオ」や「コンセプト・デッサン」などを言葉としての 概念と同時に提示していくわけである。

従って、通常のアウトプットには必ずいわゆるビジュアル的な資料が付帯されるのが通例なのだが、 2003年に手がけたいくつかの仕事の中で、非常に珍しくかつ意義深く、純粋に言葉の開発としての 社是構築プロジェクトに関わらせていただいた。

関西大手企業で商品開発に関わるその青年からコンタクトがあったのは2003年の初めである。 たまたま拙著を読んで、インターネットのホームページ経由でアクセスしてきたとのことだった。

社是構築は概念生成そのものであり、しかも純粋に言葉の開発である。 概念デザイン研究所のプログラムとしては通常のコンセプト開発(OCM ; Ordinary Concept Making)を適用するのが妥当となる。
その期間は急いで3ヶ月、やや懸かれば6ヶ月以上である。たかだか言葉の開発にそれほど懸かるのかと 思われるかもしれないが、概念生成とその構造化には実に「それほどの時間が必要」なのである。

結論的に言えば、それは概念の生成=”言葉の発明”には相応の熟成期間が絶対的に必要だからだ。 そしてこの熟成期間の中で、言葉自体も、概念生成者自体もまたその周囲も、数回の 「跳躍的な進化」を起こすのである。これを「概念エクスプロージョン」と言っている。

彼も立ちはだかる種々のハードルを前に、数回の挫折(と本人は自覚するのだが、実際には飛躍的進化前の踊り場)と 飛躍をこなしながら熱き渦流を巻き起こし、結果、言葉の発明をみごとにしてみせてくれた。そして優れた社是を構築して行ったのである。
そのときに頂いた御礼メールの一部を紹介しよう。

『山口様   新しい社是の発表プレゼンを行ないました。 長いプレゼンの結果、ほぼ満場の拍手をもって承認され、 言葉に命が宿る瞬間を、身をもって体験させていただきました。 本当にありがとうございました。今後とも、宜しくお願いします。   ○○○○○株式会社 ○○ 』

『言葉に命が宿る瞬間』とは真に絶妙な文言であり、かれが発明した社是と共に 二重に言葉の凄さを感じ、悦びを共有した次第である。

「ペンは剣よりも強し」とも言われるが、言葉;ロゴスには確かにパワーがあると思う。 言葉;ロゴスによってあらゆるものがその後展開していくからだ。

逆にパワーのある言葉を結果として生み出す概念生成をしていかなければならないのである。 概念デザイナーとして大いに学ばせてもらえる機会であった。

  


ご意見・ご質問メール;taizan@gainendesign.com
慧の総合目次;http://www.gainendesign.com/kei/kei.html
概念デザイン研究所;http://www.gainendesign.com/