”慧”小論文


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Conceptual- Design- Laboratory

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1998年5月8日;”ダイムラー・クライスラー”の意味…文責;山口泰幸

グローバルな視点で金融システムの(再構築ではない)新生から、いよいよ製造業の地球規模での 新生が始まりました。ダイムラー・ベンツ社はその栄光のベンツというブランド名を 惜しげも無く捨て去り、新しい道へ邁進する決意をしたようです。独り自動車産業にのみ 関わる話でもなさそうですので、その意味を考えてみたいと思います。

ところで、20世紀最大の発明品は何でしょうか。この頗る発展した近代工業化社会の 中では夥しい発明品がありました。しかし、その中でも時代を位置づけてきたと言える 発明品を5つだけ取り上げてみましょう。是非論は別にします。

1;自動車及び航空機の「自律型移動体」
2;「原子爆弾」
3;「コンピューター」
4;テレビや電話などの「情報メディア」
5;生産、消費、廃棄に関する「大量画一システム」
となります。その中でも自動車の位置づけは圧倒的なものであることは言うまでもありません。

ここで大切なことは以上は20世紀の賜物であるということです。つまり、これらが 21世紀の主役に成り続けるという保証はどこにもありません。私自身は21世紀には その時代に則した新たな偉大なる発明品が続々と誕生してくると思います。 結論を言えば、21世紀には自動車産業は20世紀に演じてきたような主役ではなくなる ということです。はっきりいって、20世紀的な自動車産業はその歴史的な使命を終えました。 地球上にこの百年間で数億台という新たな機械式移動生命体を生み出してきた自動車産業は その功罪と共に20世紀的な事象として語られる存在になりつつあります。

ダイムラー・クライスラーの誕生は既存の自動車産業の21世紀的な生き方のひとつの 象徴的なできごとといえます。ベンツの名前を捨ててでも新たな戦略展開に漕ぎ出した 欧米人の思考の凄さはやはり肝に銘じておくべきでしょう。彼らは、21世紀に向けて 自動車産業を卒業し、新たなグローバルモビリティサービスビジネスへの布石を打ち始めた ということでしょう。それだけ自動車産業界に危機感があるということも事実ですが 欧米の概念形成力を的確に認識しておく必要があります。名前を捨てクライスラーと 結びつく…、これを日本の関係者は一応に「日本人では発想しないこと」「ビジネスエリアが異なる」 などと驚異とは感じつつも”対岸の火事”式に捉えているわけです。本当にそれで いいのでしょうか。これも一種の「黒船騒ぎ」ですね。

マスコミは今回の合併に関して相互の不足部分を補い、技術の融合を図る…と、分析していますが、 まあ、それもその通りなのですが、もう少し大きな視点で見ておいた方がよさそうです。

今回の華々しい合併話の裏側には、厳然とした「20世紀的自動車産業の衰退」が横たわって おり、欧米人はそのことに既に気付いていてしかも着実に「21世紀的ビジネス」への 転換を既に図ったということです。

アメリカ側はドイツの技術力を、ドイツ側はアメリカの資金力をそれぞれ求めたのではないでしょうか。 では、一体何のために。そのひとつの答えが、移動体技術の”インテル化”ではないでしょうか。 つまり、表面には出ないが超優秀な”素材技術”に関してグローバルに圧倒的に押さえる という戦略です。おそらくダイムラー・クライスラーは何か技術の面で、圧倒的に優位な 商品を押さえてくるでしょう。もうひとつは、上記にも関連しますが、やはりベンツの 環境・安全技術をアメリカが高く買ったということだと思います。これからは自動車ビジネスではなく、 トータルモビリティサービスの時代になりますから、あまり個々の技術の矮小な競争は やっている暇はないわけです。それよりも世界で一番優秀な技術を使いこなすことの方が 大切になります。今回新たにできた第3位メーカーは環境・安全技術を基盤商品として 売り物にし、アメリカはそれを使うということになるはずです。「インテル入ってる」 と同様、「ダイムラー・クライスラー入っている」ということで、いずれはGMもフォード もベンツの技術力を有効に活用してくるでしょう。

トータルモビリティサービスという点では、21世紀も自動車関連は巨大な基幹ビジネスで 有り続けると考えられますが、それを長期に戦略的に押さえるべく、欧州の雄ドイツと アメリカが手を握った瞬間がこの合併であると言えます。

21世紀のモビリティサービスの拠点は、そうは言ってもやはり中国でしょう。 中国に化石燃料の移動体が入ったら、一体地球環境はどうなるんだと言う議論がありますが、 それはもっともだとしても、その前に、中国には化石燃料インフラを整備する 時間も力も無いでしょう。そういう意味でも環境対策技術は重要な中国進出戦略に転換 できるのです。ダイムラー・クライスラーの射程には、当然、魅力ある中国への 新しい技術による市場開拓があるはずです。そうした大局的な戦略からみれば ベンツの名前を一度捨象しても十分にお釣はきますね。

翻って、我が日本ですが。………。ちとまずいですね。他企業を買収できる資金力が あるのはT社のみだ…というマスコミの報道も事実でしょうが、それよりも欧米人の 概念形成力と思考力・実行力を的確に見極め、かつそれに対応できる概念設計力が 不十分なのではないでしょうか。政治的にはどうもアメリカの属国に成り下がりつつある 現状を案ずる今日このごろですが、大切な私たちの生活基盤である製造業までもが< 欧米の戦略に翻弄されていくのを見るのは忍びない気がします。

日本に今求められるのは、世紀単位の時代のコンセプト設定と、持ち前の決めの細かい 技術力の更なる進展、そして私たちの文化的な情報発信…ですね。

  


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