”慧”小論文


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1998年-9月17日…デリバティブ取引高を憂う…文責;山口泰幸

先日読売新聞が大手都市銀行のデリバティブ取引高を公表しました。「ああここまで事至れり!」というのが 私の実感でした。最大手の東京三菱銀行のデリバティブ取引高は何と320兆円です。これは銀行の実体経済 である「預金残高」の30倍に相当します。かの風前のともし火の長銀でさえ、いっちょうまえに兆円規模の デリバティブ取引を行っています。

さて、デリバティブについては既に「デリバティブの本質」でそのギャンブル性を述べましたが、これが何故 危険なのか、そして企業が打つべき安全策は何なのかを、概念的世界観から述べておきます。

デリバティブの機能的な本質は、実体的な富に対する融通料ではなく、金融に絡んで発生し得る概念的な 先物取引であります。そのメカニズムは複雑怪奇で、回転のスピードは極めて速く、高度なコンピューター のサポートと、数理的にそうした概念をハンドリングできる数学者や科学者がいなければ成り立ちません。 勿論、その目的は「お金を稼ぐ」ということになりますが。そのお金とはいわゆる金融経済上の仮想的な 資金であって、ある意味ではゲーム上の資金奪取となります。

…というわけで、通常の企業はデリバティブの売りと買いのバランスをとって安全策をとります。この売り買い の残高が先述のデリバティブ取引高になります。資金的にはレバレッジがききますので小額でデリバティブ 取引は可能です。…が投入資金の多寡にかかわらず、最終的な決済は取引高そのものになります。

つまり、東京三菱銀行の事例で言えば、バランスを完全にイーブンでとっていたとして、売りが160兆円 買いが160兆円ということです。

デリバティブは一旦はまると抜けられないといいます。そのために、銀行や企業は安全のために売り買いを バランスさせ、同時に「マスター契約」と呼ばれる対策を打ちます。これは、取引先がたとえば倒産によって 債務不履行になった場合、その相手との売り買い取引をチャラにするという契約です。

問題はこれからです。日本の企業の中にはこの「マスター契約」すら結んでないところが多いようです。 また、仮にマスター契約を結んでいたとしても、必ずしもその債務不履行相手とデリバティブの売り買いが 丁度バランスしていることは少ないでしょう。さらに、アメリカなどのようにその手の金融細工に超長けた 輩が蠢く市場では、作為的に「アンバランス+倒産」あるいは、高速なデリバティブの回転を恣意的に ある時点で急減速しかねません。怖いのはそこなんです。そうした作為が働いた場合、仕掛けるほうに 有利なタイミングで一方的にデリバティブ解消を宣言されるでしょう。そしてそのとき超巨額な負債だけが 健全な銀行や企業を襲うということになります。

たとえば長銀が今仮に倒産した場合、デリバティブ取引の半額分の債務が外国に取られ、しかも債権分が 獲れない場合、長銀の保有資金はスッカラカンになります。そのときの実体経済への影響は計り知れません。 そういう意味で、大型企業の倒産+巨額なデリバティブ取引高の組み合わせの動向を見守らねばなりません。

当面の対策としては、やはり保有資金以内でのデリバティブ取引、それもバランス+マスター契約が必須ですが …ということになりましょう。そしてあらゆる限りのクレディット策を講じておくことです。 最悪の場合は、「仮想金融は踏み倒す…!?!」位の根性で外国とやり取りをしないと、それこそ国ごと 召し上げられかねません。実物の資金が一気に海外へ流れないようにしておく必要があります。

ニクソンショックを良く思い出しましょう。今後突如としてクリントンがデリバティブショックとして アメリカのデリバティブ負債の帳消しを法律化してしまうかもしれません。この手の事に関しては私は 過敏過ぎるかもしれません。しかし、一銀行が320兆円ものデリバティブ取引をしているという 現実と、そうした極めて偏頗した金融資本主義の世界の存在の裏側には、極めて危険な裏の顔が 潜んでいることを少なくとも認識しておく必要があるでしょう。

  


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