
by Yamaguchi Taikoh…
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1.概念デザインプロセスの導入
---武蔵野美術大学研究紀要 N0.33(2002) 抜粋版 ”コンセプト開発部分”
狭小空間;HUTのCGと実物写真
居住空間;4.5畳サイズ+トイレ・納戸別置き+デッキ

イメージCG

外観全体とドア部

デッキと室内
執筆者;山口泰幸:工芸工業デザイン学科非常勤講師
ハットの研究開発において具現化との相互確認を目的として、概念デザインプロセスの導入を試みた。
抽象度が高く、同時に不可視である概念の世界から、順次翻訳過程を経つつ、現実の物理世界までを一貫して取り扱っているという意味においてハットの
研究開発は先進的であると思われる。
優れたアウトプットとしてのカタチを出現させるために、創造的な“場”を形成しながら、思考をめぐらし、コンセプトを明確に構築していくことは重要である。
概念デザインの主要な3つのフェーズは『創造“場”の形
成』、『概念の構造化』、『デザイン表現』であり、この流れに沿って綿密にデザインを計画し、実行して行く。(オーデイナリ・コンセプト・メイキング
Ordinary Concept Making)
図1参照。

図1;ハットのオーデイナル・コンセプト・メイキングプロセス
与件のテーマ「狭小空間」を踏まえながら、新しい視座にて新価値空間創造をおこなうことがハット開発の本質であると見定めて、ハットのコア・
コンセプトを次のように設定した。
コア・コンセプトとはある対象の概念デザインにおいて最も重要なもので、その対象に対する研究者・クリエイターの全意識であり、同時にデザイン
展開の狙いでもある。コア・コンセプトは、抽象度は高いが曖昧ではない言葉であって、この設定の成否によって後段のデザインの良し悪しが大きく左右される。
コア・コンセプトを設定するためには、図1のように先ず、ハットや狭小空間というテーマに対する研究開発チームやクリエイターの創造“場”が
形成されていなければならない。
ハット開発では長期間の情報収集・分析、ディスカッション、哲学的な思考を重ねながら、共有できる創造“場”を形成してきた。その中には、飛行機
のコックピット、自動車のインテリア、二畳間の茶室に関する考察なども含まれる。
狭小空間というテーマにアプローチするために、特にインテリアデザインの中で “座(すること)”が持つ意味や空間性を十分に考慮しながらコア・
コンセプトの設定を行った。
「椅子はより人間をすっぽりと包み込む器である」といえるように、“座”は極微な“住まい”でもある。
新しい視座による新価値空間創造のために、最重要のモチーフがこの点に見出せる。すなわち、『“座”は空間を生成している』のである。
他の家具と同様に、椅子もユーザーとの対峙関係において、『座る、あるいは載せる機能を具備するモノ』であり、同時にそれ自体が個物として単独
で存在する(例えば鑑賞用のオブジェとして)ことも可能な家具である。
しかし、椅子の際立った特徴は『その空間生成性』にある。つまり、個のユーザーを座らせることによって、あるいは「すっぽりと包み込む」ことに
よって、実に『ユーザーと椅子とによる特殊な空間を発生』させうる家具なのである。その空間性を『“座”のミクロコスモス』と称することができるだろう。
『“座”のミクロコスモス』とは、個が座したその瞬間に個を取り巻く微小な空間が小宇宙として形成されるということである。
『椅子が空間を発生』させ、
しかもその空間が『個的な属性』で、『ミクロな宇宙』を形成できるというところが重要である。『 “座”のミクロコスモス』という視座には空間論を革新
していく起動力があるといえる。
本研究では『より内側から』、『インテリア・プロダクト環境』をキーワードにしているが、それらが言わんとしていることは、住空間のような環境は、
外部からの枠組によって形成されるべきものではなく、内部空間から構築された諸関係によって結果として生じるべきものであるということである。
ミクロコスモスの極限に、逆に外部宇宙がダイナミックかつ膨大に広がっていく。
さらに大きな課題提起として、『 “座”のミクロコスモス』が特定の“場所”を創りあげてゆくということがある。つまり、“座”という概念に
よって特定される「そこの場所、そこだけの空間」は、場所的な固有性を希求することになる。
ただしそこには他の「そこの場所」との繋がりがなくてはならない。
「環境を家具のように自由にレイアウトする」、「オリジナルHUTとは本当に自分の欲しいもの」、「セルフビルド・ハーフビルド」、「快適性のシビアな追求」、
「将来の買い足し」---など、創造“場”から抽出されたキーワードは場所的固有性という方向を裏付けるものであり、また生活の創造性を高めることになり、
21世紀型と言えよう。
抽象度は高いものの具体的な言葉であるコア・コンセプトには、対象、視座、動きが配慮されていなければならない。
その結果ハット開発のコア・コンセプトは『“座”のミクロコスモスを深慮する』と設定した。
3.コンセプチュアル・シンボルと“環具”
1)-3 3.コンセプチュアル・シンボルと“環具”
コア・コンセプトを中心に構造化、表徴化したものがコンセプチュアル・シンボルである。概念デザインプロセスではコンセプチュアル・
シンボルは非常に重要なメディアとなる。
コンセプチュアル・シンボルという言語を超えた明確な表徴によって、ハットの概念が描写されるのである。コンセプチュアル・シンボルには、
構造とダイナミズムおよび切り口あるいは柱が描かれ、その後の具象化プロセスに指針を与えることになる。図2、図3参照。
『“座”のミクロコスモス』は、「より内側から」外部に向って、個的で生命的な空間を自己表現の一環として行う、というのがわれわれの結論
であり、その結果ハットの空間は既存の空間の「普遍性」、「固着性」、「維持性」を超えていくことになる。
『“座”のミクロコスモス』は
「“場”の創造と生成」、「変化の創出」、「自己の創造と表現」を柱として空間を放射状かつ複相的に展開して行く。
図1-3-1で示したように、コンセプチュアル・シンボルは製作物の具象化に向って次第に具象度を上げながら翻訳されていく。
そのつながりの
重要地点にコア・エレメントが存在する。コア・エレメントはコンセプチュアル・シンボルで表徴されたハットの概念世界を具現化するために設
定すべき主役である。
ハットのコンセプチュアル・シンボルから導き出されたのは、『関係性の調和的な構築によって、狭小であるが快適な環境を創り出せる家具』
という切り口であり、これをコア・エレメントとしての“環具”と称した。
“環具”自体はコア・コンセプトやコンセプチュアル・シンボルよりは具体的ではあるものの、まだ抽象度がやや高い段階にある。これをさら
に数段階具体的に翻訳しながら、製作物のデザイン、設計に進む。
ハット開発のキーとなる“環具”は、以上のような概念デザインプロセスから導き出したものである。

図2 ハットのコンセプチュアル・シンボル 図3 コンセプチュアル・シンボルの説明